糸リフトの糸は、種類より設計が9割。
PDO・PCL・コグの違いと糸選びの考え方を、たるみ専門医が解説します。
糸リフトを検討するとき、「PDOとPCLどちらがいいか」「溶ける糸と溶けない糸は何が違うか」「コグとは何か」という疑問が出てくるのは自然なことです。
結論から言うと、糸の種類だけで効果の良し悪しは決まりません。糸選び・位置(ベクター)・本数という3つの設計の順に判断していくことが重要で、最後に決め手となるのは「どの糸を使うか」よりも「どう入れるか」です。
このページでは、現在よく用いられる素材別の特徴と持続、コグ形状の種類と引き上げ力の関係を整理します。どれが自分に向くかは状態によって医師が判断するものですが、知識として持っておくことで診察の会話がスムーズになります。
糸リフトの「素材」と「構造」:2軸で理解する
糸リフトを分類するには「素材(何でできているか)」と「構造(コグの形状)」の2軸があります。この2つは別々の話であり、混同すると選択の判断が難しくなります。
| 軸 | 分類の内容 |
|---|---|
| 素材 | PDO / PLLA / PCL / 溶ける・溶けない |
| 構造 | コグなし(スレッド)/ コグあり(一方向・双方向・螺旋など) |
素材が「糸が体内で何をするか・いつ吸収されるか」を決め、構造が「どう引っかけて引き上げるか・どの方向に力をかけるか」を決めます。
素材別の特徴と持続
PDO(ポリジオキサノン)
手術用の吸収糸として長年使われてきた素材で、糸リフトの分野でも最も普及しています。吸収スピードが比較的早く、体内での分解は一般に6〜12か月程度とされます。挿入後の持続効果の目安は一般に1〜1.5年前後とされていますが、個人差があります。
コラーゲン産生を刺激する作用があるとされており、糸が吸収された後もしばらく効果が続くと説明されることがあります。素材として扱いやすく、メーカーによる形状のバリエーションも豊富です。糸リフトを初めて検討する方に最初の選択肢として挙げられることが多い素材です。
特徴まとめ:
- 吸収期間:一般に6〜12か月
- 効果持続目安:1〜1.5年前後(個人差あり)
- コラーゲン産生:期待される
- 扱いやすさ:高い(国内クリニックでの採用実績が多い)
PLLA(ポリ乳酸)
ポリ乳酸は体内で乳酸に分解される素材で、PDOより分解速度がゆっくりとされています。注射剤(スカルプトラなど)でも知られる素材で、コラーゲン産生効果への期待が高い素材です。糸としての効果持続の目安は一般に2年前後とされますが、個人差があります。
PDOに比べて吸収に時間がかかるため、比較的長期間にわたって体内に残る素材です。ハリや質感改善の実感を重視する方に選ばれることがあります。
特徴まとめ:
- 吸収期間:一般にPDOより長い
- 効果持続目安:2年前後(個人差あり)
- コラーゲン産生:特に期待されやすい
- 特記:スカルプトラなど注射剤と同素材
PCL(ポリカプロラクトン)
現在使われる吸収性素材の中で最も分解が遅い素材とされています。分解完了までに数年かかるとされ、そのぶん引き上げ効果の持続が長期にわたることが期待されます。効果持続の目安として3年前後以上とする説明もありますが、これも個人差・状態差が大きく、断定できません。
長持ちすることを重視する方に選ばれやすい一方、分解が遅いということはそれだけ体内に糸が残る期間も長いことを意味します。希望と状態のバランスを医師と確認することが大切です。
特徴まとめ:
- 吸収期間:最も長い(数年)
- 効果持続目安:3年前後以上(個人差・状態差が大きい)
- 特記:長持ちする反面、体内残存期間も長い
溶けない糸(非吸収性素材)
一部のクリニックでは溶けない素材の糸も用いられます。体内で分解されないため理論上の持続は長くなりますが、取り出しや修正が吸収性素材に比べて難しくなるという特性があります。修正のしやすさも含めてメリット・デメリットを理解した上で選択する必要があります。
コグ(棘)の形状と引き上げ力:向きと方向の設計
コグとは、糸の表面に付けられた突起(棘)のことです。このコグが皮下の組織に引っかかることで、引き上げる力を生み出します。コグのない糸(スムーススレッド)は引き上げよりもハリ改善を目的とした用途で用いられることが多く、目的によって使い分けられます。
コグの形状は大きく次の3タイプに分かれます。
| コグのタイプ | 引き上げ方向 | 特徴 |
|---|---|---|
| 一方向コグ | 一方向にのみ突起 | シンプルな構造。一方向への引き上げ |
| 双方向コグ(バイディレクショナル) | 中央から両方向に突起 | 両端で組織を把持。安定性が高い |
| 螺旋・3Dコグ | 立体的な配置 | 多方向への定着。複雑な引き上げに対応 |
引き上げ力・持続・安定性は、コグの数・間隔・突起の深さにもよります。「どのコグが強い」という単純な答えはなく、顔の構造と引き上げたい方向(ベクター)に合わせて選ぶものです。
ベクター(引き上げの方向設計)とは
糸リフトで効果を決定づける要素のひとつが「ベクター」です。どの方向に引き上げるかの設計で、単に上方向に引けばよいわけではなく、たるみの原因と下がり方のパターンによって最適な方向が変わります。
- 頬のたるみ・フェイスラインのもたつき:斜め上方向
- 口角・マリオネットラインの下がり:内側から外上方向
- ほうれい線の深さ:脂肪の偏りと連動した方向
どの糸を使うかより、どのベクターで設計するかのほうが結果に直結するケースが多いとされています。
院長(能登谷)より: 糸の種類の違いを聞かれることが多いのですが、素材より先に「どの方向にどれだけ引き上げるか」という設計が決まらないと、糸種の選択は意味をなしません。PDOでもPCLでも、設計が正しければ自然に仕上がりますし、逆に素材が良くても設計がズレると結果は出ません。
当院の糸リフトメニュー(Nリフト・アルテミスリフト・ヴィーナスリフト)
当院では主に「Nリフト」「アルテミスリフト」「ヴィーナスリフト」の3メニューを設けています。それぞれ使用する糸の素材・コグ形状・本数の設計が異なり、どれを選ぶかは診察時の状態確認を経て医師が提案します。モニター価格もご用意していますので、最新の料金は料金ページをご確認ください。
どれが向くかは状態によって変わるため、メニュー名だけで事前に決めることは推奨していません。
糸種より設計が9割:選び方の実際
「どの素材がいちばん良いか」という問いに対して、正直な答えは「状態によって変わる」です。ただし、選択の順序については整理できます。
設計の優先順位:
- 糸の挿入位置とベクター(方向)を決める:どのたるみを、どの方向に、どのくらい引き上げるか
- 本数を決める:引き上げたい範囲の広さ・たるみの程度に合わせて
- 糸の種類を決める:持続の希望・素材への適性・予算を踏まえて
この順番を逆にすると、「持続が長い糸を入れたいからPCLにしてください」という要望になります。これは「設計なしに素材だけ先に決める」状態で、効果が出るかどうかは設計次第です。
「やりすぎない」ことが自然な仕上がりの鍵
たるみを引き上げることが目的ですが、過矯正になると「いかにも手術した感」「不自然に皮膚が引っ張られた感」につながります。当院が重視しているのは、下がったボリュームを元の位置に戻す設計であり、必要以上に引き上げることではありません。
症例数が増えるほどに「引きすぎない判断」が重要だということが分かってきます。2000件を超える症例経験から、いまの当院の設計基準は「バレない自然な引き上げ」を軸に置いています。
院長(能登谷)より: 初診で「一番長持ちする糸を全部入れてください」とおっしゃる方がいます。気持ちはよく分かるのですが、たるみの状態を無視して本数を最大化しても、良い結果にはなりません。無理に売るのではなく、「今の状態に必要な量」だけ提案することが当院の姿勢です。
リスク・副作用について
糸リフトは医療行為であり、以下のリスクを伴います。施術前に必ず確認してください。
| リスク・副作用 | 詳細 |
|---|---|
| 腫れ・むくみ | 針の刺激によるもの。数日〜1週間程度 |
| 内出血 | 毛細血管に触れた場合に生じる。2週間前後で消退することが多い |
| つっぱり感・引きつれ | 糸の定着過程で生じる。1か月前後で緩和することが多い |
| 凹み・左右差 | 皮下組織の状態や固定具合によって起きることがある |
| 糸の触知 | 皮膚の薄い部位で触れる感覚が残る場合がある |
| 感染 | まれだが、術後ケアの不備で生じることがある |
| 糸の露出・移動 | きわめてまれだが、技術・体質・術後ケアが関係するとされる |
個人差があり、すべての方に同じ経過が出るわけではありません。気になる症状が続く場合は、施術を受けた医療機関に相談してください。また、過去にフィラーや他の糸リフトを受けている場合は、その情報を必ず診察時に伝えてください。
よくある質問
Q1. PDO・PLLA・PCLのどれが一番いいですか?
A. 状態と目的によって変わります。「持続を長くしたい」「コラーゲン産生効果を重視したい」「初めてで様子を見たい」など、ご希望と診察所見を合わせて医師が提案します。一般論でいえば、PDOは扱いやすくバランスが良い、PLLAはコラーゲン産生への期待が高い、PCLは持続重視という特徴があります。
Q2. 溶ける糸と溶けない糸、どちらを選ぶべきですか?
A. 溶ける糸(吸収性素材)は一定期間後に体内で分解されるため、修正や追加がしやすい特性があります。溶けない糸は長持ちする反面、取り出しや修正が難しくなります。初めての方には吸収性素材から始めることが多いですが、状態と希望によって異なります。
Q3. コグが多い糸ほど引き上げ力が強いですか?
A. コグの数は引き上げ力に関係しますが、形状・間隔・挿入方向(ベクター)も重要です。コグが多ければ良いという単純な関係ではなく、顔の構造と引き上げたい方向に合わせた設計が必要です。
Q4. 持続を長くするために本数を増やした方がいいですか?
A. 必ずしもそうではありません。本数よりも、正しい位置に正しいベクターで挿入されているかが重要です。不必要に本数を増やすとダウンタイムが長くなり、仕上がりが不自然になるリスクもあります。
Q5. 糸リフトはどのくらいの頻度で受け直す必要がありますか?
A. 糸の素材と状態によって異なります。一般的にはたるみが再び気になってきた段階で再施術を検討する方が多いです。ただしたるみは加齢とともに進行するため、糸リフト単独で永続的に維持することには限界があります。頻度については、診察で医師と相談することをお勧めします。
まとめ:種類より「設計」で結果が変わる
- PDO・PLLA・PCLはそれぞれ吸収速度と持続の目安が異なる。PDOが扱いやすく1〜1.5年前後、PLLAがコラーゲン産生への期待が高く2年前後、PCLが最も長持ち傾向(いずれも一般論・個人差あり)
- コグの形状(一方向・双方向・螺旋)は引き上げ方向と安定性に影響する
- ベクター(引き上げる方向の設計)が結果に最も直結する
- 「どの糸か」より「どこに・どの方向に・何本入れるか」の設計が9割
- 過矯正を避けた「バレない自然な引き上げ」が当院の方針
- 最終的な糸種・本数の選択は診察所見をもとに医師が判断する
監修:能登谷 翔 医師(美容外科歴10年・糸リフト症例2000件以上・各学会正会員 / gift clinic 銀座 院長)