ヒアルロン酸は補う、糸リフトは戻す。

たるみへのヒアルロン酸の役割と使い分けを、専門医が解説します。

結論:ヒアルロン酸は「補う」もの、引き上げるものではない

「ヒアルロン酸を入れればたるみが取れますか?」——これは診察室でもっとも多い質問のひとつです。

答えは「条件によってはたるみの印象を改善できる。ただし作用は『補う』であって『引き上げる』ではない」です。

顔のたるみには大きく2つの変化が同時に起きています。ひとつは脂肪・骨・筋肉が位置を下げる(下垂)こと、もうひとつは頬やこめかみのボリュームが減って凹む(萎縮)ことです。ヒアルロン酸が得意とするのは後者——凹んで支えを失った部分に不足したボリュームを足し、皮膚を内側から支えることです。

下垂を元の位置に戻す「引き上げ」が必要なケースでは糸リフトが役割を担います。この2つは競合するものではなく、役割が異なる別々の道具です。

たるみとヒアルロン酸——仕組みから理解する

顔が「たるむ」とき、何が起きているか

20代後半から、顔では以下の変化が少しずつ重なります。

  • 骨(頬骨・下顎骨など)の萎縮:土台が縮む
  • 脂肪コンパートメントの萎縮・移動:頬の丸みが失われ、ほうれい線周囲に凹みができる
  • 靱帯のゆるみ:皮膚・脂肪が本来の位置を保てなくなる
  • 皮膚のハリ低下:コラーゲン・エラスチンの産生が減る

これらが組み合わさると、「なんとなく顔が下がった」「ほうれい線が深くなった」「目の下が凹んでいる」という変化として現れます。

ヒアルロン酸が効果を発揮する場面

ヒアルロン酸は吸水性が高いゲル状物質で、注入した部位のボリュームを補います。凹みを埋めること、骨や脂肪が萎縮した「土台の支え」を代替することが得意です。

一方で、すでに下垂した組織を物理的に引き上げる力はありません。「入れすぎて顔が膨らんだ」という仕上がりは、下垂の改善を期待しすぎて過剰注入した結果として起きやすいリスクです。

院長(能登谷)より:

ヒアルロン酸は「減ったところを補う」道具です。たるみの全てを解決しようとして大量に入れると、顔が膨らんで重い印象になります。「補うべき凹みがあるかどうか」を先に見極めてから、必要最小限の量を入れる設計が正しいアプローチだと考えています。症例数が増えるほど、「入れない・少量にする」という判断の重要性を実感します。

部位別:こめかみ・頬・ほうれい線・目の下・あごの狙い

こめかみ——輪郭の「くびれ」を補う

こめかみは加齢とともに凹みやすい部位です。ここが萎縮すると、上部のボリュームが失われて顔全体が逆三角形から四角形に見えるようになります。また、こめかみが凹むと目尻・頬まわりの皮膚が引っ張られ、ほうれい線や目元のたるみが相対的に目立ちやすくなります。

こめかみへのヒアルロン酸は、失われたボリュームを補うことで顔上部のフレームを整える役割を担います。こめかみ単体の注入でほうれい線の深さが軽減されることもあるため、「ほうれい線だけを埋めればよい」と考える前に、こめかみの評価を先に行うことが重要です。

注意点:こめかみは血管が豊富な部位です。血管塞栓リスクを避けるため、解剖学的知識が豊富な医師が慎重に施術する必要があります。

頬(中顔面)——「土台」を取り戻す

頬のボリュームは20代後半から減り始めます。チークに盛り上がりがあった部位がフラットになり、ほうれい線や涙袋下の凹みが目立つようになります。

頬の中顔面(チーク部分)にヒアルロン酸を入れることで、その下にある組織を支え、たるみの印象を和らげることができます。ただしここも「補う」アプローチです。すでに大きく下垂している頬には、ヒアルロン酸のみでは十分な改善が得られないケースがあり、糸リフトとの組み合わせが検討されることがあります。

ほうれい線——「埋める」より「原因を補う」

ほうれい線の深さには複数の原因があります。①頬の下垂で皮膚が引っ張られている、②上唇・頬のボリューム減少で凹みができている、③皮膚そのものが薄くなっている——これらが重なることが多い。

ほうれい線の溝に直接ヒアルロン酸を入れる方法がよく知られていますが、原因が頬の下垂にある場合は、溝だけを埋めても自然な仕上がりになりにくいことがあります。上位の原因(こめかみ・頬のボリューム減少)を先に補い、それでも残るほうれい線に対して最小限の注入を行うのがより設計的なアプローチです。

目の下(涙袋〜クマまわり)——凹みのタイプで判断が変わる

目の下は「凹みがあるか・膨らみがあるか」でアプローチが全く異なります。

  • 凹んでいる(色クマ・影クマ):ヒアルロン酸で凹みを補うことで影が薄れ、クマの印象が改善することがある
  • 膨らんでいる(眼窩脂肪の突出):ヒアルロン酸を追加するとさらに膨らんで見える可能性がある

目の下は非常にデリケートな部位で、少量の誤差が仕上がりに大きく影響します。また眼窩周囲の血管リスクも高い部位のひとつです。診察なしで「目の下にヒアルロン酸を」と決める前に、必ず凹み・膨らみのタイプを医師が診断する必要があります。

あご(顎先・下顎)——輪郭の「エッジ」を補う

あごのヒアルロン酸は顎先のボリュームや輪郭の形を整える目的で使われます。たるみとの関係では、フェイスラインがぼやける原因のひとつに下顎のボリューム減少があり、ここを補うことで顎下のシャープさが戻る場合があります。

ただしあごも血管が集中するエリアです。特に顎下動脈への塞栓リスクには十分な注意が必要です。

糸リフトとの使い分け・組み合わせ

「引き上げる」と「補う」——役割の違い

糸リフト ヒアルロン酸
主な役割 下垂した組織を元の位置に戻す・引き上げる 減ったボリュームを補う・支える
向いている状態 頬・フェイスラインがはっきり下がっている こめかみ・頬・ほうれい線まわりが凹んでいる
ダウンタイム 数日〜(個人差あり) 比較的短い(個人差あり)
持続目安 数か月〜数年(製剤・本数・個人差による) 数か月〜1年以上(製剤・部位・個人差による)
注意点 つっぱり感・引きつれ、ひきつりが出ることも 入れすぎによる膨らみ・血管塞栓リスク

※持続はあくまで一般的な傾向であり、個人差があります。

組み合わせが検討されるケース

たるみが進んでいる場合、糸リフトで下垂を戻しつつ、凹んだこめかみや頬をヒアルロン酸で補う「組み合わせ」が検討されることがあります。

ただし、組み合わせればよいというものではありません。必要な施術だけを最小限行うことが、自然な仕上がりと長期的なリスク低減につながります。

院長(能登谷)より:

糸は「戻す」、ヒアルは「補う」——これが基本の役割分担です。同じ「たるみ」という悩みでも、下垂が主因なのかボリューム減少が主因なのかで、処方は全く変わります。両方を組み合わせることもありますが、「とりあえず両方やっておく」という設計はしません。診察でどちらが原因かを見極めてから、必要なものだけを提案するようにしています。

製剤の種類と持続について(一般論)

ヒアルロン酸製剤にはさまざまな種類があり、硬さ・粘性・架橋度によって適した部位が異なります。

  • 柔らかい製剤:皮膚の浅い層や目の下など動きのある部位
  • やや硬め・高密度の製剤:こめかみや頬などボリュームを出したい部位

持続期間は製剤の種類・注入量・代謝のしやすさ・部位によって幅があります。一般に数か月〜1年以上程度とされますが、個人差が大きく、動きが多い部位ほど早く馴染む(吸収される)傾向があります。

料金・製剤の詳細については当院の料金ページ(最新情報)をご確認ください

リスク・副作用について(必読)

ヒアルロン酸注入は「プチ整形」として比較的ハードルが低く語られることがありますが、部位によっては重篤なリスクを伴います。

血管塞栓(血管閉塞)——最重大リスク

ヒアルロン酸が血管内に誤注入された場合、または血管を圧迫・閉塞した場合、皮膚壊死や失明などの重篤な合併症が起きる可能性があります

リスクが特に高い部位は以下のとおりです。

  • こめかみ(浅側頭動脈の分枝)
  • 鼻(鼻背動脈・眼動脈との吻合)
  • 眉間・額(滑車上動脈・眼動脈)
  • 目の下・涙袋まわり(眼窩下動脈)

これらの部位への注入は、血管解剖の知識が十分な医師が適切な深度・速度・量で行う必要があります。万が一に備えて、溶解剤(ヒアルロニダーゼ)をクリニックが常備しているかどうかを事前に確認することも重要です。

その他の主なリスク・副作用

症状 特徴・対処
内出血・腫れ 多くは数日〜1週間程度で軽快。個人差あり
左右差・不均一 注入量・浮腫み具合によって生じることがある
硬結(しこり) 製剤が一部に固まることがある。多くは時間で落ち着くが、溶解対応が必要な場合も
過矯正・膨らみすぎ 入れすぎによる。溶解(ヒアルロニダーゼ)で対処できることがある
チンダル現象 皮膚の浅い層に入った場合に青みがかった色調が出ることがある(特に目の下)
アレルギー反応 まれ

施術後に異常を感じた場合は、早急に施術クリニックに連絡してください。血管閉塞の場合は時間が重要であり、早期対処が必要です。

よくある質問

Q1. ヒアルロン酸はたるみに効きますか?

たるみの原因がボリューム減少(こめかみ・頬の凹み)にある場合は、ヒアルロン酸で補うことでたるみの印象が軽減することがあります。ただし、下垂(組織が下がること)に対しては引き上げる力がないため、下垂が主因の場合は糸リフトの方が向いています。診察で原因を確認してから判断することが重要です。

Q2. ヒアルロン酸と糸リフトはどちらが効果的ですか?

どちらが優れているかではなく、役割が異なります。糸リフトは「引き上げ」、ヒアルロン酸は「ボリュームを補う」ものです。たるみの原因・状態によって適した治療が変わるため、医師の診察のうえで判断してください。両者を組み合わせることもあります。

Q3. ヒアルロン酸を入れすぎると顔が膨らみますか?

はい、過剰注入は顔が膨らんで重い印象になるリスクがあります。特にたるみを改善しようとして大量に入れると、引き上げではなく膨らみとして現れることがあります。「必要な部位に最小限の量」という設計が重要です。入れすぎた場合は溶解剤(ヒアルロニダーゼ)で対処できることがありますが、部位によっては対処にも注意が必要です。

Q4. ヒアルロン酸の持続はどれくらいですか?

製剤の種類・部位・代謝しやすさ・注入量によって大きく異なります。一般に数か月〜1年以上と幅がありますが、同じ人でも部位によって差があります。正確な目安は診察時にお聞きください。

Q5. ヒアルロン酸注入で「失明」するリスクは本当にありますか?

あります。目の周辺や鼻・こめかみなどの部位では、誤注入や血管への圧迫によって眼動脈閉塞が起きた場合に視力障害・失明が報告されています。非常にまれですが、リスクゼロではありません。解剖知識が豊富な専門医が施術すること、施術前にリスクの十分な説明を受けることが重要です。

まとめ

  • ヒアルロン酸のたるみへの役割は「引き上げ」ではなく「減ったボリュームを補う・支える」
  • 適応部位はこめかみ・頬・ほうれい線まわり・目の下・あごなど。部位ごとに目的と注意点が異なる
  • 糸リフトとの使い分けは「糸=戻す・引き上げる」「ヒアル=補う」という役割の違いで判断する
  • 組み合わせは有効なケースがあるが、「とりあえず両方」という過剰施術は避ける
  • 血管塞栓(皮膚壊死・失明)は重篤リスク。部位によっては十分な知識を持つ医師の判断が不可欠
  • 持続・料金は個人差と製剤によって幅があるため、診察時に確認する

監修:能登谷 翔 医師(美容外科歴10年・糸リフト症例2000件以上・日本美容外科学会(JSAS)正会員・日本美容外科学会(JSAPS)正会員 / gift clinic 銀座 院長)